2020.07.20雪水清花

成長と、変容と。

逢いことばの開店時に、店のベランダで育てるために購入したヨーロッパブドウの鉢植え。
緑と赤とが織り混ざった葉のグラデーションが見事に美しく、園芸店で見つけた時に、思わず一目惚れして手に入れたものです。



ブドウは、本当に美しい植物だと思います。葉の形や色味、蔓や木そのもののたたずまい、そして繊細な実の美しさ。しかもその実は、人間の食卓を豊かに彩る大きな恵みを届けてくれます。私にとっては何もかもが上品で美しい、うっとりするような植物の一つです。

生い茂る蔓や、風にそよぐ葉の姿に憧れて、逢いことばのベランダでも美しく育ってくれたらいいな……。そう思って育ててきた鉢植えは、開店から1年たった今も、元気に成長しています。

ベランダで育て始めた最初の夏。少し大きな鉢に植え替えたブドウは、美しい葉をのびのびと広げていってくれました。緑の中に、赤く色づく葉も交え、「これぞ、ブドウ!」と唸らせるほどの美しい姿で、毎日の世話を楽しませてくれました。秋には小さな実が熟し、甘酸っぱい恵みを届けてくれました。

そして冬。葉が落ち、節だらけの枯れたような枝だけを残し、見るからに寒々しい姿になってしまった私のブドウ。果たして株はちゃんと生きているのかどうか、ブドウ栽培初心者の私にはよくわからないことも多く、戸惑いながらのお世話でした。栽培のコツをネットで調べつつ、水やりの要不要については、植物の方から必ず教えてくれる確信があったので、毎日ブドウと会話する気持ちで、その生命力を信頼して世話を続けました。

春のある日。節だらけの茶色い枝のあちこちに、新芽の小さな膨らみを見つけました。
その時の感動といったら!! 植物を育てる大きな喜びは、春の芽吹きを見つけた時にこそある、といっても過言ではないと思います。これから葉や枝になっていく新芽が発する力強いエネルギーは、小さな姿ながらも、ブドウの枝全体にパワフルに満ち満ちていました。

その後のブドウの成長は、凄まじいものがありました。新芽から顔をのぞかせた柔らかい新葉は、日々、目に見えて大きく成長していきます。一日でこんなに成長するの? と驚くほどの勢いです。最初は小さくてか細いブドウの蔓も、一度つかまる場所を見つけると、たちまちグルグルと先端の巻き毛を絡ませ、すごい勢いで巻きついていきます。そして細くしなやかな巻き毛の初々しさは、太く硬い蔓の力強さに変容していくのです。その姿は、「オレは、自分の思い通りに成長するぞ。」とでも言わんばかりの、ブドウの明確で強力な決意を現しているように感じます。ブドウの日々の成長を見ていると、この植物は、美しく繊細な姿形の奥に、たくましくはっきりとした意志をみなぎらせている、とても強い植物なのだということがよくわかります。



そしてその強さは、「自分が変容することを恐れない強さ」なのです。成長の自然なプロセスの中で、やわらかさと瑞々しさをたたえた巻き毛や新葉は、太くたくましい蔓、光を取り込む硬い葉に変容していきます。植物の成長の観点からは当たり前かもしれませんが、自分がしっかりと生きていくための確かな変容は、自然の流れに抗わない強さと潔さ、そしてさらなる美しさを生み出していく。ブドウの成長と変容を見ていると、そんなことを教えられている気がしてなりません。

ブドウは毎日成長を続けて、今や逢いことばの外看板に迫る勢いで、蔓を伸ばし続けています。蔓の成長のために結んであげた麻紐には、今日も新たな巻き毛がやわらかく伸びて、紐に絡まるタイミングを探っています。

「自分に必要な変容も、その時期も、自分が一番よくわかってるさ。」

ブドウの小さな巻き毛は、自分への信頼と確信を頼りに、日々、力強く、成長と変容を遂げています。